新型コロナウィルスと栄養
亀浦利佳(管理栄養士)
礼拝の中でこのような証をする機会が与えられますことを感謝いたします。
新型コロナウィルスの時代に、管理栄養士という職業を通して見える食べ物の意味について、人間が食べることの根本的な意味について考え、理解したことを 証いたします。
人間の身体には金属元素があります。人間の身体にはおよそ60兆個、約200種類の細胞が存在します。細胞が組織を作り、筋肉や内臓など器官を構成します。栄養学的に、栄養を摂取するのは、細胞が栄養素を必要とするからです。細胞は、元をただすと30種類以上の元素からできています。それらの元素のうち、およそ95%は酸素・炭素・水素・窒素が占めます。残りの僅か約5%がカルシウムやナトリウム、カリウム、マグネシウムといった金属元素です。これらの金属元素は主に電解質としてプラスかマイナスの電化をもつ状態で身体の中に存在しており、細胞の内側と外側で電気のやりとりをしながら細胞の働きを支えています。筋肉が動く時、脳で物を考える時、心臓の鼓動すら、細胞内外でイオン化した金属元素が、激しく行き来しています。その濃度バランスは体の中で厳密に保たれ、一種類でも不足すると、生命の存続に支障をきたします。しかし、人間は金属元素をほぼ体内で作り出すことはできません。 食べ物から摂る必要があるのです。
WHOは、新型コロナウィルスに対抗するための 身体の免疫機能を維持するには、良好な栄養摂取が重要であるとし、「最高の食品購入リスト」というものを紹介しています。
その中で、新鮮な野菜と果物を、一日 最低400g食べることを推奨しています。日本人の食事摂取基準においては、一日 350g以上が目標とされています。免疫栄養学において免疫力は、食べ物を通しその活性の維持と攻撃力、抗ウィルス作用、抗炎症作用などが総合的に働いて、機能するとされます。例えば、じゃが芋に含まれるビタミンCは、免疫作用での白血球の働きを強めます。ピーマンは免疫活性を維持するだけでなく、免疫の攻撃力を強め、抗炎症作用の働きがあります。にんにく、玉葱、長ネギに多く含まれる硫化アリルは、一部が体内でアリシンという成分に変化し、免疫を整える効果があります。納豆やキムチ、ヨーグルトなどの発酵食品や、食物繊維を多く含むきのこ類、枝豆・大豆は、腸管免疫を整える食材の、代表と言えます。腸は、免疫細胞の60~70%が集中すると言われる器官で、独自の免疫システムによって身体を守る重要な役割を果たすからです。 ウィルスから身体を守る力、体作りは、様々な種類の食材が持つ、良い特徴を組み合わせることによって発揮されるのです。
南町田教会では、新型コロナウィルス感染防止対策委員会・生活協力サービス委員会が発足し、マスクとお米の寄付活動が学生会・宣教委員会を中心に進められました。そして現在は、様々な野菜や果物等を購入することで、その収益を寄付に用いていくための活動へと発展しています。毎日様々な野菜や果物が教会に届けらます。さつま芋、南瓜、大和イモ、蓮根、人参、玉葱、長葱、キャベツ、大根、ほうれん草、小松菜、ニラ、トマト、ミニトマト、茄子、オクラ、冥加、椎茸、とうもろこし、胡瓜、ズッキーニ、ゴーヤ、
ピーマン、ブロッコリー、パプリカ、空豆、枝豆、大豆、隠元、じゃが芋では男爵・きたあかり・メイクイーン、落花生、くるみ、らっきょう、にんにく、生姜、そしてレモン、バナナ、文旦、梅、さくらんぼ、メロン、スイカ、梨、桃、マンゴー、ブルーベリーと、今までに経験したことのない量の野菜や果物が手に入ります。仕事を終え家に帰ると、
沢山の野菜たちが待っています。スーパーマーケットへ買い物に行くという感染のリスクと労力が取り除かれ、体と時間にゆとりを持って、食事の支度ができるようになりました。豊富な量と種類の食材が常にあることで、これを使って何ができるだろうと考え、家族と
一緒に作り方を調べたり、きちんと食べ物を使おうとする気持ちが生活の中に根付きました。私は体型が細く、疲れやすい体質のために、栄養士の仕事の中で行う施設内のラウンディングや厨房とフロアとの連携のための対応に、身体が疲労困憊していました。けれども今は、エネルギー代謝に不足していたと思われるビタミン類や、電解質のバランスが上手く保たれ、元気に動く力を一日維持することができています。身体が以前よりも健康になり、生活の質が向上していると実感します。感謝いたします。
さて、食べ物は土地から生まれます。申命記8章7-10にこう記されています。「あなたの神、主は良い土地に導き入れようとしておられる。それは平野にも山にも川が流れ、泉が湧き、地下水が溢れる土地、小麦、大麦、ぶどう、ざくろが実る土地、オリーブの木と蜜のある土地である。不自由なくパンを食べることができ、何一つ欠けることのない土地であり、石は鉄を含み、山からは銅が採れる土地である。あなたは食べて満足し、良い土地を与えてくださったことを思って、あなたの神、主をたたえなさい。」ここに登場する鉄と銅は、最初に述べました金属元素です。鉄は光合成に、銅は呼吸活動において、植物にとっては必要なものです。鉄は、土から吸収した窒素を養分として代謝する際に、酵素として働き、葉緑素の合成経路にも働きます。また光合成によって作られた産物から、ATPと呼ばれるエネルギーを生産する時にも鉄が使われます。植物は鉄だけでなく、カルシウム、カリウム、マグネシウム等、土に含まれる他の元素も根から吸収することができます。それらは人間の身体にも重要なものです。人間は、植物が土から吸い上げた必須元素や、創り出された産物である栄養成分を無意識のうちにいただいているのです。
食べ物は、「生きる」に欠くことのできないものです。では、人間はなぜ食べるのか
という疑問が生まれます。コリントの信徒への手紙Ⅰ 8:8には、「わたしたちを神のもとに導くのは、食物ではありません。食べないからといって、何かを失うわけではなく、食べたからといって、何かを得るわけではありません。」と書かれています。神様は人間を創られた後に、これを祝福し、すべての生き物を管理することを命じられました。人間に対し先ずその責任を明示し、その後に食物の宣告を与えられました。 食べることは本来、人間の食欲や楽しみを満たすために存在するのではありません。 土地から生まれ、雨と共に育まれる恵みを口から摂り入れ、精巧な生化学の仕組みによって肉体を整え、その身体を用いて働き、神様の栄光を称える、食物はそのためにあるのです。コリントの信徒への手紙Ⅰ 10:31には、「だから、あなたがたは食べるにしろ飲むにしろ、何をするにしても、すべて神の栄光を表すためにしなさい」と記されています。食べることは生きる目的ではなく、神様の創造の秩序に参画していくための、手段です。これが「人間はなぜ食べるのか」という問いへの答えであります。手段が目的化しないように、始めに神様がおられるという順序と意味を信じることが大切です。神様から与えられる恵みに与るに 相応しい姿になることは、人間の本質的な課題です。 神様へ感謝をすることは、与えられる物への感謝に繋がります。物に感謝をすれば、与えられる状況や時間に感謝ができます。そして人に感謝ができます。人への感謝は平和をつくります。そのようにして食べ物によっても、人間の心が蘇生される機会が与えられます。
教会に届けられる野菜の中には、美味しく作られているにも関わらず、形やサイズが規格と異なるために、市場に出せないものも含まれます。廃棄される食品ロスは、生産量の4割に達します。立派な野菜だけでなく、捨てられてしまう野菜をあえて購入することは、農業に携っておられる方々への救援活動に繋がっています。 食べ物が神様と人、人と人とを結ぶ尊い賜物に用いられ、心の糧としても与えられていることを覚えます。私たち一人一人の健康と生活、心が守られることを感謝し、隣人を愛することの方法を知り、これからも見えないウィルスと向き合っていくのです。2020年の時代における、南町田教会の食べ物を通したミッションは、困難から逃げず、愛と平和をもってそれを乗り越えていく、救済の働きであります。神様に感謝し、自分だけでなく、家族、そして教会の家族、隣人の健康が守られ、一人でも多くの人が助けられるようにと願いお祈りしたいと思います。
これで証を終わります。